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「『その時、神の導きの声が聞こえたのです! 私は雷に撃たれたような衝撃を』……。えーと『衝撃を受け、思わずその場にひれ伏したのです』。……いや『その場にひれ伏しました。声は頭の中で響いているようで』……」
 私は講壇に立ち、明日の朗読会の練習をしていた。しかし、どうも集中できない。開け放った窓から、子供たちのわめき声が聞こえてくるのだ。
 私はため息をついて本を閉じ、教会裏の「光のこどもホーム」へ向かった。施設の玄関脇で、四人の子供が輪になって大声を張り上げている。
「みなさん、どうしたのですか?」
 声をかけると、子供たちはぴたりと口をつぐみ、一斉に私の方へ顔を向けた。どの子も顔色が悪く、くたびれて薄汚れた服を着ている。
「神父様、ケンちゃんが嘘ばっかりつくんです!」
「嘘じゃない!」
「嘘じゃん! この嘘つき虫!」
「これこれ、やめなさい」
「神父さま、嘘をついてはいけないのですよね?」
「嘘つきは泥棒のはじまりです。地獄に落ちます。でもみんな、本当にケンちゃんが嘘つきの泥棒だと思うのですか? 私はケンちゃんを信じていますよ」
「だって、ケンちゃん、あの宝石が六本木ヒルズに飾られるって言うんだよ」
「あの宝石って?」
「伝説の秘宝X」
「な……なに?」
「ほら! 神父さまも嘘だと思うでしょ?」
「嘘じゃないよ! 僕、さっき電気屋さんのテレビでやってるの見たんだ」
「あっ! 神父さま! どこ行くの?」
 私は教会に駆け戻り、集会室のテレビをつけた。長机に並んで座る五人の男たちが、画面に映し出された。今朝行われた記者会見のVTRらしい。中央の眼鏡をかけた初老の男性は、六本木ヒルズの社長だ。
「六本木ヒルズで伝説の秘宝Xを展示する!」
 社長はそう言うと、長机に手をついて立ち上がり、得意顔で記者たちを見下ろした。どよめきと同時にフラッシュが焚かれる。
 伝説の秘宝X。三千カラットを超えるというとてつもない大きさのダイヤモンド。その価値は日本円にして三六〇億円とも言われる。
 リモコンを持つ手が、小刻みに震えるのを感じた。とうとうこのチャンスがやってきたのだ。
「……この宝石ひとつで、さっきの子供たちのような恵まれない児童を、何人救うことができるのだろう」
 私は神に仕える聖職者であり、詐欺師である。世界犯罪ランキング三位の天才詐欺師、シルバープリーストとは私のことだ。あの子たちが幸せになるのなら、私など地獄に落ちてもよい。


 それが去年の十一月のことだった。
 私はそれから秘宝Xをだまし取るための計画を練った。まずは社員として忍び込むため、社員証を偽造することが最重要課題だ。六本木ヒルズ社員の社員証には、ICチップが埋め込まれている。どうにかしてそれを入手し、データを解析したい。
 詐欺の下準備として最も重要なのは、情報を収集することだ。私は毎日のように六本木に行き、街を行き交う六本木ヒルズの社員たちに目を光らせた。だましやすい人種を探すためだ。最も簡単にだませるタイプ。それは、恋をしている人間だ。
 私はある一人の男に目をつけた。柴田陽介、二十七歳。六本木ヒルズ勤務、営業担当。この男は、同じ営業課の御手洗(みたらい)渚という女性に恋をしている。女性の方もまんざらでもない思いを柴田陽介に抱いているようで、二人は三月五日の終業後に、渋谷でデートをするらしい。
 私はすぐにデート翌日の情報を集めた。すると六日の早朝、六本木ヒルズに清掃作業が入ることがわかった。なんという幸運! 私は思わずロザリオを握りしめ、天に祈りを捧げた。
「神よ! 聖なるお導き、感謝いたします!」
 次は二人に関する情報だ。趣味や家族構成から、好物、生活習慣、ペットの名前、香水の銘柄、かかりつけの病院、高校時代の部活動まで、徹底的に調べ上げた。


 三月四日、デート前日。その日、柴田陽介の行動に小さな変化が起こった。頻繁に携帯電話をいじるようになったのだ。メールを打っているのではないようだ。私は彼に近づき、携帯電話の画面を一瞬だけ覗き込むことができた。画面に小さな青い鳥のロゴが映っているのが見えた。
 その夜。私は易者に扮し、柴田陽介の帰り道に小机を出し、彼が来るのを待ち伏せた。午後八時、予想通りの時刻に彼は現れた。


「もし! そこのお方!」
 私は柴田陽介に声をかけた。
「……は? 私、ですか?」
「そう。あなたです! ちょっと手相を見せていただけませんか? いえ、お代はいりません。明日、あなたは重大な転機を迎えられるようなので……」
「いや、僕は占いとか……」
「ズバリ、あなたは今、恋をしていますね?」
「え……ええ、まあ。でも、僕ぐらいの年頃ならだいたい気になる女性の一人や二人はいるもんじゃないですか? 左の薬指に指輪をしていなければ、独身だってこともわかるし……」
「その女性の髪の長さは肩くらい。細身というよりぽっちゃり系で、いつもジバンシーのプチサンボンの香りがする。お気に入りの店はジュエルチェンジズ。携帯の待受画面は丸まって眠る飼い猫の画像。高校時代のあだ名は『タラちゃん』」
「ええっ?」
「さらに言えば……明日あたり、その女性とデートするご予定では? ズバリ、渋谷区神山町の謎解きイベントスペースとかで」
「ど、どうしてわかるのです!?」
「この程度のことなら、あなたの顔を見ただけでわかりますよ。まあでも、あなたは占いなど信じないということですし、明日のデートの必勝法なんぞには興味はないですよねぇ。いや、お騒がせしました。さよなら」
「あ、あの、ちょっと待って!」
「なんでしょう?」
「ちょっとだけなら時間もあるし、見てもらおうかな、なんて……」
「そうですか! ささ、どうぞこちらへ座ってください。それじゃ左手を出して。……む? これは。ぬぬぬ」
「何が見えますか?」
「お相手も、あなたに友達以上の特別な気持ちがあるようですね」
「えっ! 本当ですか!」
「本当です。ですが……。ううむ。このままだといけないなぁ」
「な、なんですか?」
「あなたはとても仕事熱心な方のようですね」
「は……はい。自分でもそう思いますが、何か問題が?」
「問題はズバリそこです! お相手も真面目な方のようですが、プライベートで仕事の話をすることは嫌いなようです。違いますか?」
「言われてみれば、そんな気もしてきました」
「次のデートの時に、仕事に関係する話をしてしまうと、未来はありません」
「そう言われても、同じ職場だし、つい仕事の話をしてしまうかもしれないな」
「すべては気の持ちようです。ひとつ、具体的な方法をお教えしましょう。仕事が終わったら、書類も鞄も何もかも職場に置いて、手ぶらで待ち合わせ場所に向かうのです」
「何もかも職場に置いて?」
「そう。仕事に関係するものは何もかもです。特に社員証です。ズバリ、社員証は持って行ってはいけない」
「ずいぶん具体的ですね。それだけで良いのですか?」
「それだけで良いのです! 心持ちというのはほんの些細なことで変わるものなのです」
「はぁ……。しかし、机もロッカーもいっぱいで、鞄を置いておくところがないしなぁ……」
「私を信じないのですか?」
「い、いえ、とんでもない! 明日必ずやってみます」
「信じる者は救われますよ」


 そしてデート当日。私は手ぶらで待ち合わせ場所に向かう柴田陽介の姿を確認した。
「おお、愛し合う二人に、神のご加護がありますように!」
 私は物陰から彼を見送った。


 三月六日の早朝。私は清掃員としてついに六本木ヒルズ内に潜入した。どこかに柴田陽介が置いていった社員証があるはずだ。彼が出社するまで、あと一時間。この一時間が勝負だ。
 だが、社員証はどこを探しても見つからなかった。机の引き出しにも、ロッカーにも、どこにもない。時間はあっという間に過ぎていった。もういつ柴田陽介が出社してもおかしくない。彼の同僚たちはすでに席について始業前のコーヒーを飲んでいる。ふと、同僚たちの何気ない会話が耳に入ってきた。
「柴田のやつ、最近あれ始めたみたいなんだけどさぁ。あいつも字の打ち間違いがひでぇんだよ。見ろよ、これ。六本木ヒルズをさ、『トッポンギジルズ』だってよ」
 男性社員はそう言って、スマートフォンの画面を同僚に見せた。
 その瞬間、私は雷に撃たれたような衝撃を受けた。やはり、神は私をお見捨てにはならなかったのだ! すぐさまトイレに駆け込み、携帯電話を取り出す。
「わかったぞ……! 社員証の場所が!」


 私はその場所で柴田陽介が置いていった鞄と社員証を見つけた。ICチップのデータは無事にコピーできた。これで社員証を偽造し、いつでも六本木ヒルズに忍び込むことができる。
「鞄が置かれていた場所には、なかなか面白いものが飾ってあったな……。まあ、そんなことはどうでもいい。これでもう秘宝Xは私のものだ。展示当日、必ず手に入れてみせる。待っていろ、秘宝X……!」


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※詐欺師編0章の謎が解けたら、柴田陽介の社員証がある場所へ実際に行ってみよう!
この謎は、本編の世界観をより深く楽しむためのものですが、本編の謎解きに必要な情報ではありません。
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