
戦国時代に活躍した森蘭丸は、織田信長の側近として知られる少年の武将です。主君・信長に対する忠誠心の深さや、その若さからも多くの逸話が残されていますが、そんな蘭丸とともに語られる名刀が「不動行光(ふどうゆきみつ)」です。本コラムでは、その逸話を紹介していきます。
不動行光は、鎌倉時代末期の刀工・行光によって作られた短刀で、同時代の名工・粟田口一派とは異なる、相州伝の力強さを感じさせる一振りです。この刀の名前の由来は、刀身に不動明王の姿が彫られていることにあります。不動明王は仏教の守護神として知られ、災いを断ち切る力を持つ存在とされています。そのため、戦国武将たちの間でも「魔除け」「守護」の象徴として、不動の名を冠する刀は特別な意味を持っていました。
森蘭丸がこの不動行光を所有していたと伝えられているのは、彼が信長の側近中の側近として仕えていたからです。1582年、本能寺の変で明智光秀の謀反を受けた際、森蘭丸はまだ十代という若さでありながらも信長の身を守るため奮戦し、最期を遂げました。このとき、蘭丸が手にしていたのが不動行光であったとする逸話が残っています。
もちろん、この話の真偽については明確な記録が残っているわけではありません。しかし、森蘭丸と不動行光の関係性は、単なる「刀の持ち主」という枠を超えて、多くの人に深い印象を与えてきました。「忠義」「若さ」「壮絶な最期」といったイメージがこの名刀と結びつくことで、不動行光は単なる武具ではなく、ひとつの物語を背負った存在として語り継がれています。
刀剣には、それぞれの時代背景や人物とのつながりによって独自の価値が生まれます。森蘭丸と不動行光の逸話は、刀が歴史の一端を物語る象徴であり、その魅力を知る入り口となるエピソードではないでしょうか。
森蘭丸と名刀・不動行光の逸話は、歴史に忠義と美意識が重ねられた印象的なエピソードです。不動明王の姿を刻んだこの短刀は、森蘭丸の勇敢な最期と深く結びついて語られています。刀剣の魅力は、こうした歴史人物との結びつきによって、より立体的に感じられるものです。